主任コンサルタント 柏原 吉晴
前回は「7.1.5監視及び測定のための資源」を解説しました。
今回は、「7.1資源」の最後の「7.1.6 組織の知識」について解説します。
「7.1.6 組織の知識」は、旧版(2008年版)には無い、全く新しい要求事項です。
ポイントは知識継承です。要求事項は以下の通りです。
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7.1.6 組織の知識
組織は、プロセスの運用に必要な知識、並びに製品及びサービスの適合を達成する
ために必要な知識を明確にしなければならない。
この知識を維持し、必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。
変化するニーズ及び傾向に取り組む場合、組織は、現在の知識を考慮し、必要な追加
の知識及び要求される更新情報を得る方法又はそれらにアクセスする方法を決定し
なければならない。
注記1 組織の知識は、組織に固有な知識であり、それは一般的に経験によって得
られる。それは、組織の目標を達成するために使用し、共有する情報である。
注記2 組織の知識は、次の事項に基づいたものであり得る。
a)内部の知識源(例えば知的財産、経験から得た知識、成功プロジェクト及び
失敗から学んだ教訓、文書化していない知識及び経験の取得及び共有プロセス、
製品及びサービスにおける改善の結果)
b)外部の知識源(例えば、標準、学界、会議、顧客又は外部の提供者からの知識収集)
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組織において、組織の各プロセスにおいて、そこに所属する個々人の知識を体系化
する重要性をどのくらい認識しているでしょうか。多くの企業の多くの管理者は、
過去の成功体験を引きずって、周りの環境変化に鈍感になっている人が少なくありません。
組織は、意味のある組織の知識を体系化し、従業員が効率よく習得し、且つ、それを
日常業務に活用し、製品・サービスの品質や安全性を向上させ、管理職や役員は経営
戦略にそれを活かし、組織の成長を持続させる原動力になることが望まれます。
そのためには、2つのポイントがあると考えます。
1.顧客や利害関係者の満足度向上のために、及び、業務遂行並びに製品・サービ
スの適合のために必要な知識の収集
2.収集した組織の知識を、PDCAを回すことで知識継承を確実にする
組織を取り巻く市場環境からリスクを明確にし、リスクに適切に対応するための知
識を現在の知識と比較し、追加の知識や更新すべき知識を定期的に収集し、体系化
=見える化することがPlan(計画)です。
見える化とは、これらの知識を、該当する従業員に効率よく習得させるための教育
体系の構築、ライブラリー(特許等の知財、事例集や手順書など)の構築などを意
味し、教育訓練の年間計画の作成なども重要です。
次に計画に沿った社内教育訓練、外部研修、学会発表、自己学習の機会の提供が
行われ、これがDo(実行)です。従業員は、受動的、能動的に組織の知識を学びます。
同時に、予期していない新規の有用な知識に触れることもできるでしょう。それらは
個々のレポートから抽出され、また組織の知識の体系に組み込みます。
次に、組織の継続的成長の原動力として、本当に収集した知識が活用されているか、
業務に活かされているか評価します、これがCheck(評価)です。評価する上で、
製品・サービスの適合性、顧客クレーム、業務効率、原材料費など、組織の課題に対
して知識が及ぼす影響を考慮した上で、評価基準を設けることが重要です。
最後に、評価結果をうけて、業務遂行並びに製品・サービスの適合に必要な知識体
系の再構築、知識習得に必要なアクセス方法の再構築が重要で、組織の知識のメン
テナンスがAct(改善)に該当します。
食品会社は、人の健康に直結する製品・サービスを担っています。
ISO9001が求める「組織の知識」を、体系化、PDCAを実行しましょう。
以下に、食品会社の知識の例を示します。参考になれば幸いです。
<食品会社の知識の例>
1.原料・製品別の食品安全ハザード(生物、化学、物理)の知識
2.ハザードの管理手段(予防、除去、低減の方法)の知識
3.食品関連法令の知識
4.防虫防鼠の知識
5.施設・設備の構造及び予防保全の知識
6.清掃洗浄殺菌消毒の知識
7.緊急事態の想定、対処方法の知識
8.市場動向、顧客ニーズの変遷、現在の嗜好
9.競合企業の製品・サービスの特性、売上動向
10.自社の製品・サービスの特性、苦情事例、改善事例
11.自部門プロセスの改善活動結果、生産効率、手順