主任コンサルタント 柏原 吉晴
今回は、ISO9001「8.5.4保存」について解説します。
「保存」についてFSMS(ISO22000/FSSC22000)では「保管」という表現で多くの記述があります。
ISO22000では、7.2.3のf項に「製品の取り扱い(例えば保管、輸送)の管理」という
要求事項があり、保管についての前提条件プログラムの構築が求められています。
ISO22000ではこれだけですが、当然ながら前提条件プログラムの要求事項である
ISO/TS22002規格に、多くの規定がされています。
まずは、ISO9001の要求事項を確認しましょう。
ISO9001の8.5.4の要求事項は、次の通りです。
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組織は、製造及びサービス提供を行う間、要求事項への適合を確実にするために必要
な程度に、アウトプットを保存しなければならない。
注記 保存に関わる考慮事項には、識別、取扱い、汚染防止、包装、
保管、伝送又は輸送、及び保護が含まれ得る。
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原料から最終製品までの一連の工程全てにおいて、適切な保存が要求されています。
ISO9001の規格要求事項自体は、ボリュームはそれほどではありません。
一方、ISO/TS22002-1の規格では、保管について以下の要求があります。
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5.7 食品、包装資材、材料及び非食用化学物質の保管
6.3 ボイラー用化学薬剤
7.3 廃棄物管理及び撤去
11.2 清掃・洗浄及び殺菌・消毒用のための薬剤及び道具
12.4 棲みか及び出現
13.2 要員の衛生の設備及び便所
13.3 社員食堂及び飲食場所の指定
13.8 人の行動
14.2 保管、識別及びトレーサビリティ
16.2 倉庫保管の要求事項
17. 製品情報及び消費者の認識
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FSSCの方は「保管」について要求事項が多いのが良くわかります。
上記の各要求事項を簡単に説明すると、
5.7は、食品、包装資材、材料及び非食用化学物質の保管について。
6.3は、ボイラー用化学薬剤の保管について。
7.3は、廃棄物の保管について。
11.2は、清掃・洗浄及び殺菌・消毒用のための薬剤の保管について。
12.4は、保管品の有害生物からの保護について。
13.2は、便所と保管区域の位置について。
13.3は、社員の飲食物の保管について。
13.8は、保管区域での要員の行動規範とロッカー内保管の禁止について。
14.2は、手直し品の保管、識別及びトレーサビリティについて。
16.2は、倉庫保管について。
17は、製品保管についての対顧客・消費者への情報提供について。
上記のそれぞれについて、主に「汚染防止」や「保護」の視点から規定されており、
項目によっては、「識別」や「取扱い」や「包装」の要素も要求されていると考えます。
ISO9001では「保存」の中に「保管」が含まれますが、言葉の定義を抜きにして考えると、
ISO9001にあって、FSMSで無い又は要求が明確ではないのが「伝送又は輸送」です。
「輸送」は当然、製品輸送があります。
製品を安全に確かな品質を保ったまま輸送することは、FSMSでは、フローダイアグラム
に書かれて、ハザード分析の対象になるでしょう。
最終製品の特性としても、包装や配送方法を規定することが求められているので、
「輸送」について管理対象から漏れることは無いと考えます。
それでは「伝送」についてFSMSで規定されているかというと、ほぼ規定されていません。
まず製品自体を伝送することが無いです。
しかしながら、OEM生産する製品などでは、レシピや製造管理情報の伝送(電子メール等)
のやり取りはあるでしょう。
原料や中間製品と同様に、製品に関する電子データも製品の一部と考え、保存対象にすると良いでしょう。
ISO22000は現在改訂中で、2017年7月にDIS(国際規格原案)が承認されました。
HLS(マネジメントシステムの共通要素)が採用されており、2018年に発行されるISO22000:2018では、
「7.5.3文書化した情報の管理」で、「文書化した情報が十分に保護されている。
例えば、機密性の喪失、不適切な使用及び完全性の喪失からの保護」という規定が想定されるので、
電子情報のセキュリティ管理が強化されると思われます。
しかしながら、現状の2005年版のISO22000では十分な規定がないため、情報セキュリティの管理が
十分とは言えない状況です。
ここは、ISO9001:2015を活用し、FSMSにおける情報セキュリティ管理を強化するきっかけにしては
いかがでしょうか。