主任コンサルタント 柏原 吉晴
今回からしばらくは、ISO 9001品質マネジメントシステムとISO/FSSC 22000食品安全マネジメントシステムの違いや特徴を解説します。フードチェーン関連企業以外の方にも参考になれば幸いです。
ISO 22000規格要求事項は、もともとISO 9001を意識して作成されているので、「ISO 22000=ISO 9001 + HACCP」というような表現がされます。
ISO 9001の7章「製品実現」が、HACCPの12手順7原則に置き換わっていますが、大まかな構造は似ています。
まず順に見ていきますが、最初に大きく違う部分が、ISO9001の5.4.1品質目標です。
ISO 9001は単独で要求事項がありますが、ISO 22000にはありません。
ISO 22000の5.2「食品安全方針」のf)項に「判定可能な目標によって支持される」とあるだけです。
その後の「マネジメントシステムの計画」に目標が展開される流れは同じですが、若干、食品安全マネジメントシステムでは軽視されている感があります。
ISO 22000の審査でも、あまり目標管理についてはしつこく聞かれません。
果たしてそれで良いでしょうか?
主が7章のHACCPの部分なので致し方が無いですが、マネジメントシステムである以上は、目標を掲げて継続的改善をし続けていくことが組織には求められます。
それでは食品安全の目標って何にすれば良いでしょうか?
当然まず挙げられるのが「食品事故・食中毒の発生ゼロ」があります。
次に「法令遵守(記載内容の間違い無し)」でしょうか。
食品安全として考えると、どうしても「製品の安全」という狭い視野になってしまうので、マネジメントシステム全体、プロセスアプローチの視点で、食品安全目標を立ててみましょう。
品質的な要素も目標にします。
マネジメントの目標は様々な外部及び内部要因によって変化しますので、内外の変化をインプットしマネジメントシステムの更新のためにアウトプットする要求事項=内部コミュニケーションの要求事項を手引きに、目標を考えてみます。
以下、5.6.2「内部コミュニケーション」各項に対して、目標例を挙げます。
a)製品又は新製品
→製品事故・食中毒ゼロ、社内不良率低減、新製品開発件数、既存製品の改善件数
b)原料,材料及びサービス
→原価低減・歩留向上、供給者・契約者の評価点数アップ
c)生産システム及び装置
→生産システム改善によるコスト削減(生産性アップ)、装置や器具の更新(ハザードの除去・低減数)、
生産システム改善(制御プログラムなどの更新)によるセキュリティレベルの向上
d)製造施設,装置の配置,周囲環境
→施設の維持管理(年間維持費低減)、交差汚染箇所の減少、周囲環境整備・敷地外清掃の実施回数
e)清掃・洗浄及び殺菌・消毒プログラム
→ライン拭取り検査結果の菌数低減や残留タンパク質の低減、害虫捕獲数の減少
f)包装,保管及び配送システム
→包装不良数削減、長期滞留品の削減、配送コスト削減、配送不良ゼロ
g)要員の資格レベル及び/又は責任・権限の割当て
→資格取得、力量評価点数の向上、従業員満足度の向上
h)法令・規制要求事項
→法令遵守、保健所監査の評価点数アップ
i)食品安全ハザード及び管理手段に関連する知識
→新規ハザード及び新管理手段の調査・採用数、講習会実施数、学会発表の回数、特許出願件数、論文掲載数
j)組織が順守する,顧客,業界及びその他の要求事項
→顧客監査の評価点数アップ、所属団体への貢献度、顧客満足度調査点数アップ
k)外部の利害関係者からの引き合い
→一般消費者の見学受け入れ、フードコミュニケーション実施数(出張、授業、イベント参加など)
l)製品に関連した食品安全ハザードを示す苦情
→苦情件数削減(品質と食品安全)
m)食品安全に影響するその他の条件
→従業員3年定着率アップ、残量時間の削減、食品リサイクル率向上、外部審査指摘件数削減、売上高総利益率向上、労働災害ゼロ
上記の目標は一例です。ISO/FSSC 22000を認証取得されて年数が経過している組織は、是非、これらの目標を積極的に変化(向上)させて、内部コミュニケーションの会議等で進捗管理して下さい。
言うまでもなく、これらプロセスの成果を含む情報は、マネジメントレビューのインプットになり、トップからの評価を得て、次のアウトプット(目標の改定)につながります。